八百谷からミョウキ尾根
8月3日~4日、一泊で奥秩父の沢を歩いてきた。
滝川支流の槇ノ沢から八百谷を遡行し、ミョウキ尾根で西仙波に登った。下山は曲沢を下降し、滝川右岸道で高平に戻る周回ルート
ルート図
朝6時過ぎに出会いの丘に着くと、どこかで見た車が停めてあった。
荒川水系渓流保存会のAさんの車だ、すでに出発した後のよう。
きっとどこかの沢に入っているのだろう。
準備をして出発。
林道を歩き、 黒岩尾根登山道に入る。
少し行った分岐から釣橋小屋への道に入る。
この道、所々倒木や崩落があり、年々歩きにくくなって行く。
一般登山道ではないため、整備する人もいないので、このまま荒れるに任せていくのだろう。
火打ち石で休憩。
湿度の高い森の中は風も通らず蒸し暑い、汗びっしょり。
川への下降点で踏み跡を失って少し迷った。
何度となく歩いている道だが、スズタケが枯れた後、ショートカットルートが出来たりして、わかりにくくなった。
急坂を下り、無事に滝川本流へ降り立つ。
心配していた水量も遡行に支障が出るほどではなく一安心。
沢装備に履き替えて本流を下る。
すぐに槇ノ沢出合い。
下降路にスリップ痕があったので予想はしていたが、河原には真新しい足跡がつけられていた。
おそらく釣り人だろう、面倒な事にならなければ良いが。
ゆっくりと遡行していったつもりがすぐに追いついてしまう。
年配の2人組の釣り人。
挨拶して話を聞くと、日帰りで大樋の滝まで釣るそうだ。
「八百谷まで行きてえけど、あそこまでいったんじゃ帰ってくんのが容易じゃねえかんな。」
沢登りと知ると、快く先行を許してくれた。
「出来るだけ荒らさないように歩きますので。」と言うと「気にする事ねえから好きな所歩いて行きない。」と言ってくれた。
良い人たちで良かった。
一応竿も持ってきたのだけど、今回はもともと真面目に釣りをする気はなくて、余裕があれば上の方でちょっとだけ竿を出してイワナの顔を見れればくらいに考えていた。
しばらくは広い河原が続くので、出来るだけ川から離れて歩いてゆく。
ゴーロの河原が尽きると川幅が狭まって、川が右に直角に折れる。
ゴルジュの奥に大樋の滝。
水量が多くて迫力がある、やっぱりあの倒木は邪魔だなあ。
右から大巻き。
その先の狭間もまとめて巻く。
少し渓相が落ち着いてきたところで、竿を出してみた。
すぐに7寸が出て、その先のトロ場でも反応があった。
アワセが早すぎて掛け損なったが、ちょっと間をおいて毛鉤を流すと、今度はずっしりとした手ごたえ。
根がかりかな?と思ったらゆっくりと底へ潜って行く。デカイ!
岩の下に入ろうとするのを堪えて、引っ張り出してはまた潜られというやり取りの後、ようやく水面に顔を出したのは余裕の尺上。
足元の瀬に寄せて、写真を撮ろうとラインに手をかけた途端にプツンとハリスが切れた。。
ずっと交換していなかったので、結び目が出来て強度が落ちていたのだろう。
逃がしてしまったのも残念だが、それ以上に鉤付きのイワナを作ってしまったのが心苦しい。
新しいハリスに替えて再開。
ほぼポイント毎に出て、8寸。
9寸と立て続けに釣れた。
ここで釣りは終了、もう十分に満足した。
釣れるのが分かっている釣りは面白くない。
もしかしたらもう一回尺がでるかも知れないが、ここまで来て尺上釣ってもなあ・・という気になった。
自分でも驚くほど、イワナ釣りに関しては淡泊になってしまった。
竿を畳んで遡行再開。
八百谷出合。
本流に掛かる木橋はだいぶ朽ちていたが、まだ辛うじて残っていた。
八百谷に入るとすぐに滝。
右から巻くが降り口が分からず迷う。
滝上の連瀑帯の先にもうひとつ滝が見えるが、地形的にまとめて巻くのは無理。
なので一度沢床に降りなければならないのだが、どこから降りたものやら?
支点に手ごろな木もあるし、懸垂で降りちゃおうか?とザックを降ろしかけてふと不安になる。
懸垂下降して、万一この先の滝が登れなかったりしたら進退窮まってしまう。
過去に一度遡行しているので絶対にルートはあるはずだが、状況が変わっていないとも限らない。
再度、ルートを探してみると、一段下にトラロープが渡してあった。
少し戻ってここをヘツる。
しかし、このロープかなり古い、中間支点の木が腐り落ちてぶら下がっている。。
出来るだけ体重をかけないよう、慎重に降りた。
ここを降りているときに、次の滝にもロープが下がっているのが見えた。
これも古いが、ここはさほど頼らずに登ることができた。
その先でまた登れない滝。
どちらから巻こうか?滝上で沢が右に曲がっているので、定石は右巻きだが、そちらはガレたルンゼで沢側は岩壁。かなり上まで追い上げられそう。
左は草付きの泥壁で、なんとなく登った痕跡があるのでこちらを選択。
できるだけ低く巻こうと思ったが登り過ぎ、下のバンドから二段目の上に降りた。
上段は左側の水流を登る。水流は強いがグリップは良い。平水ならなんてことないと思われる。
その上は登れる小滝やナメで結構気持ちよく遡行。
尾根まで届く山抜け。
右岸に造林小屋跡の台地が見えてきた。
ここで泊まる予定だったが、まだ2時すぎ、もう少し上まで行っておけば明日が楽だ。
と、歩き出したところで雨が降り出した。
一度小屋跡まで戻って雨宿り。
一旦上がったと思ったらまた降り出した、今度は雷を伴っての土砂降り。
1時間ほどでおさまったが、もうこれ以上遡行する気になれなかった。
今日はここで泊まることにする。
古い一斗缶とか一升瓶の破片が散乱しているが、広くてそこそこ快適なテン場である。
タープを張って準備完了。
今回の荷物の中で一番重くて嵩張る8㎜30mが初めて役に立った。
濡れた木を集めて火を起こす気にもなれず、焚き火は断念。
服を乾かすことが出来ないが仕方ない。
着替えてビールを飲みながら、対岸の尾根を眺めていたら、急にあそこを登ってみたくなった。
八百谷と槇ノ沢を分けるミョウキ尾根の支尾根で、これを登れば西仙波に上がれるはず。
見た感じ末端はさほど急ではないし、地形図を見ても難所は無さそう。
ただ、登った記録を見たことが無いので、上まで登れる確証は無い。
まあ、今夜一晩ゆっくり考えてみよう。
夕食は米を炊いてレトルトカレー。
子供が小さいころに食べていた妖怪ウォッチカレーの残り物。
賞味期限は2年前に切れているが、「こんな物腐るわけないから山で消費して来い」と家内に言われて持ってきた。
辛くない以外は普通に美味しかった。ま、山で食べれば大概のものは美味しく感じるのだけど。
夕食を済ませて酒を飲んでいたら急速に眠くなって、6時過ぎにシュラフに入ったらそのまま眠ってしまった。
夜中にトイレに起きると、木々の合間から満点の星空が見えた。
明日は良い天気になりそうだ。
どこかで鵺が鳴いているのを聞きながら再び眠りについた。
二日目。
目が覚めるとすっかり明るくなっていた、時計を見ると5時半。
夜中に一度目が覚めたと言え、たっぷり10時間も寝てしまった。
インスタントラーメンに昨日の残り飯をぶっこんだ炭水化物だけの朝食を摂り、タープを撤収して出発。
やはり、今日は尾根を登ることにした。
沢を詰めた方が時間的にも体力的にも楽だと思われたが、この沢の源頭はかなり荒れていて、最後はザレの詰め上がりになると聞いていた。
ならば回り道になっても尾根から登りたかった。
ミョウキ尾根なんて沢がらみじゃなければまず登れないので、いい機会だと思ったのである。
沢を渡って対岸の斜面に取りつくと、上手い具合に踏み跡が残っており、これを使って簡単に取りつくことができた。
過去の作業道と思われるが、意外としっかりしており、尾根筋にも道が付けられていた。
よしよし、これは思ったより楽ができそうだ。と揚々と登って行く。
途中から枯れスズタケの中の道になる。
ここは大洞川の栂ノ沢出会いから仙波尾根に登る支尾根に雰囲気がよく似ていた。
下の方は明確な道があって楽だったが、1656の小ピークを過ぎると急に藪っぽくなってきた。
アセビの藪を漕いだり避けたりしながら進む。
1700M圏で北からの支尾根を合わせた辺りで、藪の向こうに開けた場所があった。
小径を分け入ってみるとちょっとした岩場になっており、素晴らしい展望が広がっていた。
樵路巡遊というサイトに記述のあった、ミョウキ尾根の岩場というのがここのようだ。
自分レベルの登山者が辿りつける所ではないと思っていたので、感慨深かった。
展望を堪能した後、再び藪尾根を登って行く。
ここから先はアセビに加えてシャクナゲまで加勢してきて、とてもじゃないが太刀打ちできない藪になってきた。
尾根筋を左に見ながら、藪を避けて登って行く。
この辺りから足がキツくなってきた。
やはり沢を詰めた方が良かった、と後悔しながら歩く。
尾根の右側がミヤコザサの気持ちのいい斜面になり、ここに鹿道と思われる踏み跡が通っていた。
だが、これを辿ると尾根を外れてしまうので、所々で交錯する鹿道を乗り換えながら尾根筋を追って登って行く。
稜線が近づいて、藪の向こうに西仙波のピークが確認できたが、藪を突っ切って直登は出来そうもないので、南方向に斜面をトラバース気味に進む。
仙波のタルと思われる鞍部が見えてくると、いつの間にか下に良い道が現れた。どうやらこれが槇ノ沢林道の跡らしい。
稜線に近づくにつれ道はさらにしっかりしてきて、ほぼ登山道と変わらなくなった。
おそらく間違って入り込んでしまう登山者がいるのだろう。
合流点は入らないよう通せんぼされていた。
無事に登山道に乗れて一安心、ここから和名倉山方面に進む。
西仙波を過ぎると、大展望の稜線。じつに爽快な道が続く。やはりこのルートをとって正解だった。
東仙波、山名版が無くなっていた。
ここで一瞬電波が入ったので家内にLINEを入れる。
ちょっと予定より遅れ気味なので、先を急ぎたいところだが、足がキツくてペースが上がらない。
和名倉山に近づくにつれ、広い尾根上の道は倒木に塞がれて所々分かりにくくなっていた。
私も何度か道を失いかけた。
道の脇でのんびり休憩中のキツネを発見。
こちらに気付くと飛び上がるように逃げていった。
こんなに遠かったっけ?と思いながら川又分岐へ。
川又道は以前歩いた時より荒れていて、いずれ消えてしまいそうな感じだった。
かなり消耗して曲沢下降点。
ここで軽く昼食をとり、沢を下って行く。
脚に力が入らないので、一歩一歩慎重に下って行くが、何度も滑って尻もちをついた。
この下りはもう全然余裕がなくなっていた。
これから右岸道を歩いて、さらに国道までの急坂を登って、またさらに出会いの丘までの車道歩きが待っている事を考えると気が遠くなりそうだ。
ヘロヘロになって右岸道渡渉点へ。
沢タビからトレランシューズに履き替える、荷物がさらに重くなってキツさが増す。
この滝川右岸道も崩れたり埋まったりで、所々危険な場所があった。
この辺りは東大演習林だが、ここまで管理しきれないのだろう。
途中、何を血迷ったか沢小屋沢へ下る道へ引き込まれて、余計な体力を消費してしまった。
疲れてくると判断力まで低下してしまう。
滝川にかかる吊橋に着いた時には心底ほっとした。
ここから国道までの登りが鬼キツかった。
いつもなら一気に登る道を、10回以上足を止めて休み休み登った。
国道に出たら出会いの丘までタクシー呼んじゃおうかと真面目に考えたくらい。
残り体力数ポイントでどうにか高平へ。
すでにザックを背負って歩く体力は残っていない。帰りに回収しようと、道路わきの広場にデポして歩き出す。
思考が停止していて、危うく車のキーを置いてきてしまうところだった。
誰か親切な人が、出会いの丘まで乗せて行ってくれないかな?などと妄想しながら国道を歩き、当然そんな奇跡に恵まれる事も無く、30分歩いて出会いの丘に帰り着いた。
汗でドロドロの服を着替えていたら、ちょうど保存会のAさんとSさんが車に戻ってきた。
話を聞くと、ブドウ沢に入っていたらしい。
こんな増水している日に、よくもまああんな恐ろしい所へ入ったものである。
あの人たちは絶対どこか壊れている。
もう家まで運転するのも面倒だったが、帰って汗を流してビールを飲みたい、という一心でなんとか運転して帰宅した。
翌日が仕事じゃなければ、大滝の道の駅で温泉に入って泊まっていたと思う。
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JICKYさん、こんにちは。
行間から疲労感があふれ出ているような山行、大変お疲れ様でした。
ミョウキ尾根というのは名前すら知りませんでした。地形図で確認しましたが、槇ノ沢と八百谷の中間尾根のことですか。取り付くまでの遡行が大変なようですね。序盤でホイホイと岩魚の良形が掛かるのに、サッと切り上げてしまうのには感じ入ってしまいましたよ。
ミョウキ尾根の枯れたスズタケを分けて延びる廃道跡がいいですね。枯死したスズタケさえあまり見なくなった今では懐かしいような光景です。
下山に使われた曲沢ですが、あれは下降路として普通に下れるような沢なのですか?
私もタープ泊が好きなのですが、去年は一度も行わず、今年も長い梅雨で予定を断念。レポを拝見して行きたくなってしまいましたよ。
投稿: 十津川村 | 2019年8月 7日 (水) 16時45分
十津川村さん
今回は自分の体力の衰えを痛感させられました。
このところ日帰り山行ばかりだったので、一泊装備がこんなに負担になると思っていませんでした。
ミョウキ尾根は私も樵路巡遊のサイトで知りました。
槇ノ沢林道(バラトヤ林道)の項で記されていたのを、その不思議な響きと1690m圏の岩場の記述とともに覚えていたのですが、まさか自分がそこを歩く事になるとは思っていませんでした。
和名倉山の他の尾根と同様に伐採の痕跡が残る尾根で、古いワイヤーなどが散乱していますけど、廃道歩きが好きな人には面白いと思います。
ただ、おっしゃる通り取りつきまで沢歩きになるのが難点ですね。
槇ノ沢本流を遡行し、八百谷出合から取りついてしまえば比較的楽だと思います。
この日はイワナの機嫌が良くて、毛鉤を投げれば食いついて来るという状況でしたので、すぐにお腹いっぱいになってしまいました。(笑)
シブければもう少し粘っていたと思います。
曲沢ですが、沢登りのガイドブックには下山用として紹介されているくらいで、危険な個所もほとんどなくて下降には良い沢です。いくつかある滝も全部クライムダウンできます。
夏の沢はタープ泊が気持ちいいですね。沢でタープを張って、焚き火の横で酒を飲むというのは最高の山遊びだと思います。
投稿: JICKY | 2019年8月 7日 (水) 22時11分