夏の源流
長かった梅雨も明けて、ようやく源流に行くことができた。
天候不良と雑事に邪魔され、なかなか都合がつかなかったので、軽い禁断症状が出るくらいストレスがたまっていた。
どちらかと言えば「イワナを釣りたい」というよりも「渓を歩きたい」「山に入りたい」という気持ちの方が強かった。
朝4時に歩き出す。
まだ真っ暗、いつの間にか季節がずいぶん進んでしまった。
歩いているうちに空が白み始め、ヘッデンの明かりが照らす輪が徐々にぼやけてゆく。
森がセピア色になるこの時間は何とも言えず気持ちがいい。
終わりかけのナツツバキが所々で甘い香りを放っている。
2時間半の歩きでようやく入渓点に着く。
沢沿いを渡る風が汗をかいた体に冷たくて心地よい。
先行者もいない、今日一日ゆっくりと楽しめそうだという期待感で気持ちが高揚する。
一息入れてから遡行開始。
最初はしばらくゴルジュが続くので、竿は出さずに遡行に専念する。
滑りやすい岩にできたシワや、わずかな窪みにグリップを求めてへつり、ズルズルの草付きを這い登って小滝を巻き、水勢に抗しながら渡渉する。
久しぶりの沢歩きが何とも言えず楽しく感じられる。
沢が開けた所から竿を出して遡行。
すぐに7寸のちびが挨拶してくれた。
ここまでの遡行で、沢沿いにほんの数日前に歩いたような痕跡が認められた。
おそらく昨日か一昨日あたり誰かが入渓したのだろう。
そのせいか、魚の反応は今一つ。
瀬の開きで「会心の一撃」という感じで良型がヒットしたのだが、頭上の枝を気にしてモタついているうちに倒木の下に潜られてしまった。
うんともすんとも動かなくなり、仕方なく川に入って糸をたどると、見事に毛鉤だけが倒木に引っかかっていた。
俗に言う「木化けの術」。
イワナという魚はなかなか侮れない。
ヒラタケ
あちこちに出ていたが、食べられそうな状態の物はこれだけだった。
ちょっとしたプールの横の水溜りのようなポイント。
何気なく毛鉤を落としてみたら、水面下で大きな影が動いた。
反射的にアワせると根掛かりしたような重量感、続いてグリングリンと首を振るイワナ独特の手ごたえ。
小場所だったので、難なく取り込むと意外に大きい。
測ってみたら、ギリギリ尺の良型イワナだった。
竿抜けポイントに大物が残っていたようだ。
マスタケが出ていた。
ちょっと食べ頃を過ぎて硬い。
この沢のイワナは体側の朱色が濃くて美しい。
ここは奥秩父の滝の中でも有数の迫力がある。
沢の全水量が狭まって一気に落ちる直瀑、飛沫を浴びながらしばし見とれる。
最近はこの滝まで届かないことが多かったが、今日は反応があまり良くなかったので、いつもより遡行速度が早かったのかも知れない。
久しぶりに見たら、落石で滝壺が埋まっていたのが少々残念だった。
魚止めはまだまだ先だが、この滝を巻いて遡行する気力が残っていなかったので、ここで納竿した。
この上もまだまだ魅力的な沢が続くが、沢の下降と下山の体力に余裕を持っておきたい。
ミヤマクマワラビ。
最初にこの沢に入った時、この群生を見て古生代に迷い込んだような錯覚を覚えた。
今は鹿の食害でずいぶん数が減ってしまった。
シオジの実生が大量に出ていた。
去年は相当の豊作だったのだろう。
開けた河原でゆっくりと昼食を取って、下降開始。
天気も良くて暑く、汗が止まらなかったので、我慢できず小さな釜に飛び込んで見た。
気持ちよかったのはほんの一瞬。
あっという間に体が冷える。
1回で「ゴメンナサイ、もう十分です」という感じ。(笑)
樋状のナメ滝。
一度ここをウォータースライダーのように滑り落ちて見たかったが、滝壺の倒木が怖くて勇気が出なかった。
沢歩きを楽しみながら下ってきたので、あっという間に最初のゴルジュ帯まで下って来てしまった。
「ああ・・もう終わりか」と思うと、なんとなく名残惜しくなって、いつもは巻いて下る所も水線で降りる。
フェルトソールのグリップが効くかどうか?というギリギリのへツり。
恐怖心よりもスリルを楽しむ余裕が上回る。
最後の河原で、ゆっくりと今日の沢の余韻に浸りながら一服。
まだまだ渓の空気に触れていたかったが、帰りも2時間半の山歩きが待っている。
後ろ髪を引かれるように道に取りついた。
帰りの山道も、キノコなど楽しみながらゆっくり歩いた。
タマゴタケ
幼菌
知らないイグチ。
タマゴテングタケモドキ・・かな?
多分その成菌
気持ち的には充分余裕があったのだが、体の方は一杯いっぱいで、最後の下りでふくらはぎが両足とも攣ってしまった。
たまにしか来ないとダメだなあ、本当はもっと頻繁に通いたのだが。。
たっぷり12時間かかったことになる。
久しぶりの源流で体はキツかったけど、奥秩父の自然を満喫できた一日だった。
やっぱり沢はいいなあ。。
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